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人材開発支援助成金で不適切支出が判明

 会計検査院は10月9日、厚生労働大臣に雇用保険の人材開発支援助成金の支給に係る改善処置等を要求した。従業員の人材育成やスキルアップを支援する助成金だが、同院の実地検査の結果、助成金を支給するとともに訓練実施機関が訓練経費を一部負担することで事業主は全く負担しない実態が判明したことから、審査方法や支給要領等を見直すよう求めている。

 雇用関係助成金の一つである「人材開発支援助成金」は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度。
 同助成金は、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど7つのコースがあり、教育訓練経費に各コースに応じた一定率の額を助成する経費助成と、訓練期間中の所定労働時間内の賃金を助成対象として、訓練時間1時間当たりについて一定額を助成する賃金助成を設けている。なお、賃上げ促進税制では、雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額の計算に当たって、国の補助金等の「補塡額」がある場合には給与等の支給額からその金額を控除することとなるが、この補填額には事業展開等リスキリング支援コースを除く6コースの助成金交付額も該当する。
 同助成金の支給申請に当たっては、訓練開始日から1か月前までに、実施する訓練内容等を記載した訓練計画届等を管轄の労働局に提出して内容の確認を受け、訓練終了日の翌日から2か月以内に、事業主が訓練経費を支給申請を行うまでに全て負担していることを明らかにするための領収書等の関係書類を、支給申請書に添付して労働局に提出。支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて支給要件を満たしているかを審査した上で支給決定する。厚労省が定める雇用関係助成金支給要領では、事業主が訓練経費を全て負担していることが必須で、訓練経費の負担の状況を明らかにする書類を整備していることなどを支給要件としている。
 会計検査院は、助成金の支給決定に係る審査等が適切に行われているかに着目し、全国のうち10労働局が令和元〜5年度までに支給決定を行った助成金について、支給申請書等の書類を検査したところ、東京・大阪・愛知など8労働局管内の32事業主に不適正支出が認められた。
 このうちの30事業主(支給額計約1億円)は、訓練実施機関等と役務契約の締結で、訓練受講者の感想文の提出など教育訓練に関連する役務提供を行い、訓練実施機関等から入金と助成金を受け取ることで訓練経費の全てを負担していなかったことが判明。残りの2事業主(同239万円)は、実際は役務提供をせず訓練実施機関から入金を受け、訓練経費の全てを負担していなかった。
 この事態を受け同院は、訓練実施機関等から事業主に対して入金があった際の取扱いを明確にすべく支給要領等の見直しと、入金の有無等を適切に確認できるような審査・調査方法をマニュアル等に新たに定めるよう要求。全ての助成金の不正受給及び不適正支給の防止に繋がることを期待したい。