▼視点
▽ニュース
▽税経相談室(税理士 安井和彦・穴澤 靖)
▽企業法務の実務(弁護士 木島康雄)
▽税理士ができる伴走支援のススメ
(中小企業診断士 落藤伸夫)
▽所得税における判断指針となる重要判決
(税理士 坂井一雄)
▽相続税の勘どころ
▽ (東京富士大学大学院客員教授・税理士 佐藤 繁)
▽トピックス
▽税理士が知っておくべき採用の現状とコツ(終)
(社会保険労務士 石井隆介)
▽資料~インボイスの取扱いに関するご質問
ティータイム

オーバーツーリズムと宿泊税

 コロナに伴う人流抑制時期を経て、航空路線の運航再開や航空便の増加、円安傾向等に伴い、訪日外国人観光客が増加し観光地を中心に賑わいを見せており、日本政府観光局によると昨年の訪日外国人数は3,687万人となっている。一方で、深刻化するオーバーツーリズム(観光公害)対策費を兼ねて、自治体の宿泊税の創設・引上げが加速している。

 宿泊税は、平成12年4月の地方分権一括法による地方税法の改正により創設された法定外税(法定外目的税)で、導入には条例創設後に総務相の同意が必要となる。徴収方法は、旅館・ホテルが特別徴収義務者となり、宿泊料金とともに徴収して自治体に納められ、その使途は観光資源の魅力向上や観光の振興を図るなど、観光業を盛り上げ、観光客の誘致や環境を整えるために充てられる。税率は自治体により様々だが、1人1泊当たり100円~1千円の範囲で設定されていることが多いが、北海道のニセコ町では宿泊料金10万円以上は2千円に設定されている。
 今年1月末での導入済み自治体(導入順)は「東京都・大阪府・福岡県・京都市・金沢市・北海道倶知安町・福岡市・北九州市・長崎市・北海道虻田郡ニセコ町・常滑市」の11自治体。また、4月1日からは熱海市(1泊200円)、北海道赤井川村(1泊・「2万円未満」200円、「2万円以上」500円)でも導入される。見直しでは、9月から大阪府が課税されない宿泊料金(免税点)を7千円から5千円に引下げ、税率も1人1泊「5千円以上1万5千円未満」を200円、「1万5千円以上2万円未満」を400円、「2万円以上」は500円に引き上げる。京都市でも、宿泊税の税額区分の見直しと1泊当たりの税額の最高額を1万円(現行1千円)とする条例改正・総務相の同意を得て来年3月からの施行を目指している。上記以外でも条例制定に動いている自治体もかなり増えている。
 自治体の積極的な宿泊税の導入等は、観光客に対する受入環境整備がある一方、観光客による自然破壊、ゴミのポイ捨・騒音などによる地域住民の生活悪化といったオーバーツーリズム深刻化への対応もある。オーバーツーリズムの結果、観光地の魅力・評判が低下すれば、この先の観光客の集客が難しくなり、地域経済の悪化にも関わってくるためだ。
 今、この問題はわが国だけではなく世界の観光都市でも起こっていて、やはり宿泊税で対応しているケースも少なくない。
 なお、国のオーバーツーリズム対策としては、観光庁がオーバーツーリズムの未然防止等に向け令和5年10月の観光立国推進閣僚会議決定の「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」に基づき、市民を含めた地域の関係者による協議の場の設置、協議に基づく計画策定や取組に対する包括的な支援を実施することとしている。
 今年1月の訪日外国人観光客数は378万人と単月で初めて370万人を突破するなど、旅行需要の高まりは衰えることを知らない。
 しかし、宿泊税の安易な税の導入・引上げは、日本人旅行客等の減少にも影響しかねない。かと言って、外国人旅行客限定や日本人観光客との税額等の格差は公平な課税の見地から難しい。今後も宿泊税の動向が気になるところだ。