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どうなる個人住民税の現年課税化

 総務省・個人住民税検討会は今年3月、令和6年度における個人住民税の現年課税化についての検討報告書をまとめた。同年度では企業における源泉徴収や年末調整に係る対応状況を踏まえ検討を行ってきたが、現行では個人住民税の現年課税化に否定的な意見が大宗を占めており、今後どのように検討を進めていくかが注目される。

 個人所得課税においては、所得税(国税)は所得が発生した年に課税・納税する「現年度課税」、個人住民税(地方税)は前年中の所得を基準として翌年度に課税する「翌年度課税」が行われている。
 政府税制調査会が昭和43年にとりまとめた「長期税制のあり方についての答申」では、所得発生時点と税徴収時点との時間的間隔をできるだけ少なくすることにより、所得の発生に応じた税負担を求めることとするためには現年所得課税とすることが望ましいと明記。平成17年にまとめた「個人所得課税に関する論点整理」においても、所得課税は所得発生時点と税負担時点をできるだけ近づけることが望ましく、IT化の進展、雇用形態の多様化等、社会経済情勢の変化を踏まえ、納税者等の事務負担に留意しつつ現年課税の可能性について検討すべきだとし、平成27年の同会全体会合でも議論の俎上に上がっている。
 そこで個人住民税検討会では、現年課税化により期待される効果・問題点及び導入する場合に考えられる方向性の検討を平成18年度に行ったのを皮切りに、源泉徴収義務者等の事務負担軽減の方策、現年課税への切替年度の税負担のあり方、マイナンバーカード・マイナポータルの利活用、報告された情報に基づき市町村が最終的な税額決定及び精算を行う市町村精算方式の採用など、約20年間にわたり検討を重ねてきた。
 個人住民税を現年課税化とすることの意義について、所得発生時点と納税時点を近づけることで前年より所得が減少した者の負担感が減少し、所得税と同時期に課税が行われる結果、税を負担する者にとって分かりやすく、収入発生時に税を徴収するため徴税が容易になり税収の安定的な確保に資するなどといったメリットを掲げてきた。
 しかし令和6年度の検討会では、検討会構成委員でもある日本経済団体連合会や日本商工会議所から、現行の仕組みで致命的な問題が生じていない中であえて現年課税化する必要はなく、なぜ必要なのか納税者や企業の納得を得るよう丁寧に説明する必要があると指摘。加えて、未曾有の人手不足に見舞われる中小企業や自治体の双方に多大な事務負担を押し付け、生産性を低下させる極めて影響の大きい制度変更であり、企業の納税事務負担の増加を招くため反対との意見が出された。
 今後は、これまでの課題整理や、行政手続及び企業事務のデジタル化の更なる進展を見据えた関係者の事務負担を軽減するための手法を引き続き模索していくとともに、働き方の多様化を踏まえた公平性の観点や外国人労働者の増加等に伴う出国者への課税の観点からも中長期的な視点で検討を深めていく方針。個人住民税の現年課税化を実現するにあたっての議論は、更に多くの年月をかける必要があろう。