▼視点
▽ニュース
▽国税庁等新幹部の横顔
▽税経相談室(税理士 小畑孝雄・森田 修)
▽企業法務の実務(弁護士 木島康雄)
▽税理士ができる伴走支援のススメ
(中小企業診断士 落藤伸夫)
▽税理士が社長の経営参謀として活躍する方法
(公認会計士・税理士 柴山政行)
▽裁決事例
▽令和7年6月度の企業倒産状況
▽労務相談コーナー
▽令和7年度税制改正解説① 相続税関係
▽ティータイム
自筆証書遺言書保管制度創設5年の状況は
遺言書作成方法の一つである自筆証書遺言書を法務局に保管できる自筆証書遺言書保管制度。遺言書を自ら手書きで作成した場合の“保管”問題をクリアにし、相続トラブルの防止策にも繋がるなどのメリットがある同制度の申請件数が、創設5年で10万件の大台を超えた。
自筆証書遺言は、自書能力さえあれば作成でき、費用がかからず手軽で自由度が高い反面、遺言書の紛失や相続人間での遺言書の改ざん等を理由とする遺言書成立の真正や遺言の有効性、内容をめぐる紛争などのリスクがある。また、作成にあたり民法で厳格な方式が定められており、方式不備から無効となるというデメリットも存在する。
そこで、様式等のルールを定めこれに沿った自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)が外形的な確認をした上で適正管理することで、メリットを損なわずデメリットを解消した自筆証書遺言書保管制度が令和2年7月10日から開始された。
遺言書の保管期間は、遺言書原本が遺言者の死亡日から50年間、遺言書の画像データを含む情報は死亡日から150年間で、費用は保管年数等にかかわらず遺言書1通につき3,900円。遺言者は保管した遺言書を閲覧でき(費用・原本1,700円、モニター1,400円)、修正を含む撤回は無料で行える。そして、遺言者が事前に指定者通知を行うことで、遺言者死亡時に相続人等の閲覧を待たず、指定者へ遺言書が保管されている旨が通知される。
相続人等は制度により、遺言書保管事実証明書の交付請求を行うことで自分を相続人や受遺者等・遺言執行者等とする遺言書が預けられているか否かの確認(手数料1通800円)ができる。そして自分を相続人等とする遺言書が保管されていることが確認できれば、遺言書情報証明書(遺言書の写し)を取得(1通1,400円)することで、不動産の相続登記や各種手続に利用できる(家庭裁判所における検認の手続は不要)。
法務省によると、保管申請件数は今年6月で10万137件(保管件数9万9,910件)と10万件に達し、相続人等による遺言書情報証明書交付請求は8,507件、遺言書保管事実証明書の交付請求は1万1,531件におよぶ。
日本は元々、諸外国に比べ遺言書の作成率が低い傾向にある。そのような状況下、同制度創設に向けて実施された法務省調査では、遺言書の保管制度の概要を説明の上、自筆証書遺言の場合でこの制度を利用したいかとの質問に47.1%が「利用したい」と回答しており、遺言書の紛失や改ざん、遺言書の存在が知られないまま遺産分割されるなどのリスク回避に対する潜在的ニーズは少なくない。
さらに、社会問題化している所有者不明土地問題解決のため昨年4月から開始された、相続等で不動産を取得した場合、所有権取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行うこととされた「相続登記の申請の義務化」への対応にもつながる。
法務省では現在、保管申請の事前チェック等のオンライン手続の試行や相談会などを行い制度の周知を図っている。今後のさらなる利用増加が期待される。