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事業承継税制の今後の方向性

 各府省庁は8月末に令和8年度税制改正要望をとりまとめた。このうち経済産業省は、事業承継税制について、法人版・個人版ともに令和8年3月31日までとなる承継計画提出期限の延長とともに、事業承継による世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念も踏まえ事業承継のあり方を検討するよう求めているが、制度は今後どのように変わっていくのだろうか。

 中小企業庁では、令和6年6月に設置した「中小企業の事業承継・M&Aに関する検討会」の下に、「中小企業の親族内承継に関する検討会」を今年6月に設置し、雇用を支え地域における活力の維持向上といった重要な役割を担う中小企業が親族内承継を含めた事業承継を円滑に実現するための施策の検討を行い、8月に中間とりまとめを公表し、議論を踏まえた政策の方向性を示した。
 中小企業を取り巻く現状をみると、休廃業・解散が令和6年は6万2,695件発生し、これまで4万件台で推移していたが6万件を突破。黒字で休廃業・解散をした者の割合は半数以上となっており、廃業予定の企業では、後継者不在による廃業が約3割を占める。
 経営者年齢の分布の推移では、未だ事業承継が必要となる70代以上の事業者が多く、今後承継が本格的に必要となる60代の層も多く存在。都道府県別にみると、全ての都道府県で70代以上の経営者割合は増加しており、特に地方圏において増加幅は大きくなっている。
 新たな経営者の就任経緯では、内部昇格やM&Aによる就任が増加傾向にあるものの、親族内承継(同族承継)の割合は3割を占め引き続き高く、後継者選定の優先順位として、多くの経営者はまず“親族内承継”を第一に検討する傾向にあることから、M&Aのみならず、状況に応じて、あらゆる承継手段(親族内承継、従業員承継等)を取ることができるよう、支援策を実施していくことが重要だと唱える。
 このような中、法人版事業承継税制は令和5年度には5,327件が特例措置を活用するなど、地方における承継問題の一つの解決手段として広く普及しており、潜在的に活用する可能性の高い者は約1.1万社と見込まれるなど、同税制の効果は高いものとなっている。
 ただし、将来の不確実性を憂慮する経営者からは、納税猶予期間が長期にわたる点に対する懸念もあり、同制度が使われにくい実態があるのではないかとの見方もある。そこで、猶予制度と評価減制度のそれぞれのメリット・デメリットを踏まえて、評価減制度の可能性を追求することや、例えば10年事業を継続すれば猶予税額が免除されるような工夫ができないか検討すべきと中間とりまとめで提唱。
 雇用確保要件についても、平成21年度税制改正での一般措置開始から失業率が約5割減少し、足下では賃上げ率が急騰していることに鑑みて、地域の人手不足が深刻な中で、雇用維持に加えて、従業員の賃上げといった新たな企業の取組を評価すべきだとしている。
 この他、猶予対象株式数の適正な水準への引上げ、海外子会社の株式も対象とするなど改正への具体的な方向性を示している。
 これら示された検討の方向性に基づき、今後、制度面でのあり方について具体化を図る考え。議論の行く末が注目される。